近年、日本でもファッションズ・ナイト・アウトと称して表参道などでハイブランドショップが夜遅くまで店を開け催事を行い、ファッショニスタ達がこぞってわざわざ夜に買い物をしたりノベルティーグッズをお目当てに店頭に並んだりする姿が見られるのだが。
大体ね、ブームになるのが遅いんだよね。
僕なんてとっくの昔からマッサージ・ナイト・アウトしてるんだから!
…というワケで、血の巡りが悪いため首や肩や背中や腰がいつも凝っていてオマケに坐骨神経痛持ちという年寄り並の低スペックな上、運動やストレッチをする事すら嫌いなので、頼るは他人の手、他力本願主義を全開にして向かうのは夜のマッサージ店。
夜の、とはいってもエロいマッサージではない。
いやエロくてもいいんだけど、エロよりも普通のマッサージの優先度が格段に高く、一生マッサージできないくらいなら一生セックスできなくてもいいくらい。
SEX, DRUGS & ROCK'N'ROLLなんて僕からしたらマッサージ以下の微々たる事柄に過ぎないのだ。
ファッショニスタが表参道に集うのであれば、マッサジスタが向かうのはもちろん新大久保だ。
在日韓国人や中国人、最近ではムスリムまで入り乱れ、すっかり多国籍感溢れる街に誰も頼んでないのに勝手になってしまったが、彼らにとってマッサージは重要な稼ぎ口であると共に、歌舞伎町が隣接してるため夜の住人が多いので、必然的に深夜~明け方まで営業しているマッサージ店が多いのである。
韓国人のマッサージ店は大概が雑居ビルやマンションの一室で、友達の家かっていうくらい生活臭がし、中には自宅と兼用なのだろうかキムチを漬ける臭いが充満している所も。上下ジャージ姿の全く関係ないババアがうろうろしてたり。
日本の韓流ブームを意識してかK-POPグループのポスターが壁一面に貼られ、その中に人体解剖図のようなツボの経絡図が混ざってたりして不気味この上ない。
眉毛やアイラインに入れ墨(アートメイクというより入れ墨)を施したおばちゃんや、やる気のなさそうなネエちゃん、K-POPアイドルには程遠いルックスの青年などにカタコトで迎え入れられ、しっかり前金で勘定を取られてから着替えを促され、ベッドのまるで便器のようにくりぬかれた穴に顔を埋めて、本日の最も凝っている部位を告げて施術開始。
もちろん昼もマッサージに行くのだが小綺麗なチェーン店の日本人スタッフより、生活がかかっているからだろうか、それとも検定の合格基準が違うのか、外国人の方がマッサージが上手い。
上手いし、強めで揉まれるのが好みの僕にはちょうど良くグイグイくる。やる気なさそうなネエちゃんも意外な力でグイグイくる。
しかしよく喋る。施術中もスタッフ同士が韓国語でペラペラと喋りまくっている。
日本の店だったら接客中の私語なんて有り得ないが、以前韓国に遊びに行った時も、夜、何もないのに外に人がいっぱい居て立ち話をしていたり(在日韓国人が多い大阪に行った時も同じ光景でなんか日本じゃないみたいで不思議だった。)、夜間も営業してるファッションビルだってスタッフの私語は当たり前、店員がスイカ食べてたり寝てたりと、まあそういう大らかなお国柄なのだろう。
喋っていても手はきちんと動いているので気にはならないのだが、隣のベッドの若いヤクザが「痛ぇ、痛ぇよ、…痛ぇって言ってんだろ!」と声を荒げると水を打ったようにシ~ンとなるものの、しばらくするとまた喋りだす。
そして今度はヤクザが「寒みぃ!」と一喝。再びシ~ンとなりエアコンの温度調節のピピピッという音だけが部屋に鳴り響く。
看板に「癒し空間」と書かれているのに全然癒されないんですけどぉ~。
でも僕は別に癒しを求めているのではなく、体がほぐれれば何でもいいのだ。
足裏マッサージも好きで中国系の店によく行く。
そこはなぜか爽やかな青年スタッフが多く、やっぱり施術中に中国語で喋りあっているのだが、なんとなく皆ルックス偏差値が高めでイケメン風なのと、ただのマッサージ店にしてはビル丸ごと持ってて妙に羽振りが良い感じなので胡散臭く思っていたら、どうやら裏オプションとしてその店の男の子達を買う事もできるらしい。
もちろん普通のマッサージだけでもよいのだが、何でも岩井志麻子がよく男の子を買いに来てるそうだ。(※あくまで噂です。)
そういえば店の壁に岩井志麻子含め有名人達のサインがちらほら飾ってある。
足裏を揉まれている時にやたら痛い箇所があって「それ何のツボ?」と訊いたら、ニヤッと笑って
「ちんちん」
と言われたのはそういう事だったのだろうか。
スタッフが施術後に名刺をくれるのだが、その名刺や、スタッフが付けてる名札にも名前はなく全員が番号で呼ばれており、それはガサが入った時に誰が誰だか判らないよう誤魔化して言い逃れするためだとか。
歌舞伎町の有名人と遭遇する事もある。
その店で足裏マッサージ中、隣に居たのが歌舞伎町のホストクラブの老舗『愛』本店の愛田社長だった。
しかもちょうどテレビのドキュメンタリー番組で愛田社長の特集をしていてそれを店内で観ていたのだ。
愛田社長はスタッフとも懇意らしく、店のテレビのリモコンを牛耳りながら足裏マッサージをしてもらっていた。
しかし愛田社長がテレビのボリュームをどんどん上げるもんだから正直うるさかったけど誰も何も言えず、社長がウトウトした頃を見計らってスタッフがこっそりボリュームを下げてたのが可笑しかった。
新大久保界隈のマッサージ店は大体がこんなもんであり、中には不法滞在の温床でありそうな、ブローカーなんかもやってそうな胡散臭さと殺伐とした雰囲気もあって、でもそれがまるで映画『ブレードランナー』の世界に入り込んだような気分になれるので、それはそれで良い。
とにかく深夜もやっている店というのは夜型人間には大変ありがたく、ネオンに誘われて体をほぐされるというのもいいものである。
一度間違えてエッチなマッサージ店に入ってしまった事もあるが(何となく怪しげな看板だったけど「女性もOK」と書いてあったので普通のマッサージ店かと思って入ったら明らかに性感がメインの店だった。)、でもあくまで普通のマッサージを受けたいという事を主張したら腑に落ちない顔で一応はやってくれたのだが、背中をずっと撫でるだけで、いつ揉むかいつ揉むかと思っていたけどけっきょく時間いっぱいまで背中を撫で回されるだけだった。
この人達(もちろん店員は女性のみ)は普段、手コキなどしかしないワケだからまあ仕方ない。
街のネオンが朝日に変わる頃、スッキリした体で家路に着き、ぐっすりと眠る。
そして起きるとまた体が凝っているほどの凝り性です。