2019/08/10

芸能山城組2019(後編)

 山城組の説明会では当然ケチャについても説明があり、バリ島の現地の人の暮らしと祭の体制の関係、祭でトランス状態に陥った人から血液を採り脳波を調べて脳内物質がどう分泌されているかという検証まで(もちろん普段はそんな事は許可されないんだけど、現地の人達と山城組との長年の信頼関係における)、諸々へぇ〜!と思う事ばかり。

 ここでケチャについてザッと記載しておくと、歴史については意外とそこまで古いものではなく1930年頃に現在のケチャの形が出来上がり、上半身裸の男衆が輪になって座り「チャッ!チャッ!」と鋭い声を発しながら手や体を使って情景を作り、その輪の中でヒンドゥー教の(バリ島は独自に進化したバリ・ヒンドゥーのため)聖典『ラーマーヤナ』のストーリーが舞踏によって演じられるというもの。
 男性によるケチャは4パートに分かれており、各パートが相互補完する事によって高速の16ビートが絶え間なく繰り出されるという仕組み。

 ほぉ〜そういえばターセム監督の映画『落下の王国』でもケチャによる呪術で体に地図を浮き上がらせるシーンがあったなーなんて思い出しつつ、とりあえず4つのパートのそれぞれのパターンを憶えれば出来るものなんだーという軽い認識で後日ケチャの稽古にも参加。この段階でもまだ自分がケチャまつりに出るという認識はなくて、手伝いくらいだったら出来るかな?くらいの感じで。だってそんな稽古ちょびっと出たからって言ってさすがにすぐ本番は無理でしょ!って思ってたから。

 しかし。

 山城組の人々の流れに身を任せていたらまんまといつの間にか自然にケチャまつりに出る方向へと自分の意識も向いて行き(山城組恐るべし!)、全体の通し稽古へも参加。
 
 だがしかし。

 ケチャは4つのパートだけ出来れば簡単に出来るよ!との言われていたのに全体を通してやると全くそんな事はなく、合唱が入ったり知らない動きがあったりで「聞いてね〜よ!」状態。ワケ分かんないままアワアワしつつ見様見真似で付いて行くのが精一杯。
しかもこの日が全体の通し稽古の最終日という。本当にこんな状態で参加していいのだろうか…?と思いつつも日は過ぎてケチャまつり当日に。

 祭初日の朝に会場である西新宿の三井ビルの広場に到着すると、中央にはバリ風の城門がど〜んと設置されておりすでにエキゾチックムード。今日からここで5日間ケチャまつりが行われるのだ。
 午前中は“祝祭空間”である祭会場の設営手伝い。夏の暑さで汗だくになりながら様々な物を運び、飾り付けなども。ケチャまつりの面白いところはただインドネシア風なだけの物産展みたいにはせずに日本の屋台も建て込むところ。葦簀(よしず)の数もハンパない。演目もケチャやガムランなどの他に日本の郷土芸能や大道芸、ブルガリアとジョージアの合唱などもありちょっとしたカオス。更には2019年AKIRAイヤーも推しているので、無機質な高層ビルに囲まれたこの一角だけがリアルにサイバーパンク空間となる。

 昼過ぎの祭スタートに合わせて僕は休憩所である屋台「お休み処」の店番として配置され飲み物を売りまくる。昔ちょっとだけテキ屋をやってた時期があるので売り子はお手の物でありそのせいあってか翌日からはもう「主任」と呼ばれるように。課長・島耕作並みの異例のスピード出世である。お休み処の売り上げも前年より良かったそうで何より。
 屋台営業で自分に課した信条→①景気のいい呼び込みの声を出す ②自分を江戸っ子だと思い込みチャキチャキ動く ③あとはとにかく愛嬌!

 午後から巨大な竹で出来た楽器・ジェゴグによるAKIRA楽曲その他の演奏と実際にジェゴグに触れられる手ほどきコーナー、太鼓と鉦(かね)がクレイジーに鳴り響くじゃんがら念佛踊り、岩手から本場の鹿踊(ししおどり)の方達にも来て頂いて圧巻の舞、3メートルくらいあるささらと呼ばれる矢羽根のような物を背負った奇妙だけど勇ましい、『千と千尋の神隠し』に出てきそうな装束の鹿達がダイナミックかつ繊細に踊る姿はなぜかとてもセクシーに感じた。
 会場に夕陽が差す頃にブルガリア女声合唱とジョージア男声合唱。女性達は可憐な浴衣姿で、男性は祭装束のままヨーロッパの合唱をするというのは奇妙な光景ながらも、遠くの異文化の国の芸能を身近に感じられて面白い。ブルガリア女声合唱の突き刺さるような高音の発声、ジョージア男声合唱の荘厳ながら朗らかな響き、どちらもとても不思議なハーモニーで、歌声も西日に染まってとても美しい時間だった。
 日が暮れてからはガムランの演奏。青銅の精巧な響き の中でレゴンと呼ばれる女性舞踏が繰り広げられる。最高の夕涼み。

 そして、ケチャである。
 事前に祭装束からケチャの衣装に着替え、両耳の上に花を差し、こめかみに白いドウランをちょんちょんと塗ってもらう。(お米を表しているらしい。)慌ただしく円陣の位置関係とケチャのパターンの確認をしていざ出陣。
 中央に火が焚かれ、正面の城門の真ん中から主要パートのメンバーが出たのをきっかけに左右から奇声を発しながら妖しい動きで一斉に登場、輪になって座り司祭からお清めの水を頭上に撒いてもらうと一気に落ち着き、ヒンドゥー教徒でなくとも神聖な気持ちになる。
 あとは周りに合わせて動きながら声を発し続け、それにより時に登場人物や神様を鼓舞し時に宮殿の壁となって結束したり破壊されたりしつつ、あっという間の40分強。
 初日は動きを思い出すのに精一杯だったけど2日目以降からはかなり楽しめて出来た。我々は普段表現というといかに自分の個性を突出させるかを主に行っているのがほとんどだけど、ケチャの場合は逆にいかに自分の個を没して全体の波と化せるかというのがとても大切になるのでシンクロを感じられた時の歓びはひとしお。これは芸能山城組が提唱する脳のオフライン同期という事にも繋がってくるのだが難しいのでここでは省略。もっと簡単な例として、赤ちゃんを数人並べて寝かせておくとなぜかみんな寝相が一緒になるのと究極的には一緒なんだと思う。脳波の共有。年齢に関係なく(=修練とは関係なく)輪に入ると出来てしまうというのはやっぱり人間がもともと持ってる機能なんだろうなー。

 そんな体験を毎日繰り返している中、3日目に昼から一人でお休み処に居る男子が居た。AKIRAマニアの高校一年生で茨城から往復2000円かけて来たそうだ。どうせならケチャに参加してみない?と声をかける。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損、損!というヤツだ。最初は迷っていたけど決行の意思。山城組のベテラン組員さんに稽古を付けてもらってその日の夜にケチャに参加。ご飯代も無いとの事だったから僕の分の支給のお弁当を半分こして頑張ってもらった。そして最終日にも参加したいと。祭仲間の着てる「芸能山城組」のロゴの入った装束は有料のレンタルなんだけど、お金無いけどどうしてもみんなと同じのが着たいと。今年バイトするのでそれで来年支払えないかとの打診があったけど僕が決められる事ではないので自分できちんと衣装さんに言ってごらんと促したら、見事同じ装束を着られて、おもちゃ屋の屋台の店番や撤収作業も手伝ってくれた。いい思い出になったかな。

 僕も今回、昔同じ伝手で仕事してた仲間2人と祭に参加して一緒にケチャやって、更に城門などのセットを管理・運送している会社もその時の仲間の会社だったというミラクルもあってとても嬉しかった。こういう繋がりすごいよねー!

 全日程無事終了した後は地獄の撤収作業だったけどもうすっかり暑さと疲労に耐性が付いていた自分にビックリ。でも疲れたけど〜。
 打ち上げにも参加し山城組の方々と楽しく飲み交わしました。山城組の組員の方々は大学教授やその他先生がすごく多くて脳科学の医学博士なども居て知能レベルの水準が高過ぎるんだけどみんな気さくでいい意味でゆるくて楽しい。そして組頭の山城祥二氏も祭に来てて自ら音響レベルの指示してたり、ファンのおばちゃんが著書にサインをもらってたりと。普段はとてもチャーミングなお人でした。

 今回参加してみて次の目標としてやっぱり合唱がやりたい!っていうのと、いずれは踊り手やグッズのデザインもしてみたいという願望も。出来る限り出来る範囲で出来る事を楽しみながら関われたらなーと思いました。

 そして夏の想い出というのは年を取っても作れるんだな!っていう。