2022/08/04

MUJI・悲…過呼吸っぽい

 猛暑の中、昼過ぎに区役所へ赴き用事を済ませて外に出た途端に気分が悪くなり区役所の駐車場でうずくまっていると警備員に見つかり「ここ邪魔だから」と移動させられる。無慈悲!
仕方ないので端っこの方で、もうきちんと座れないのだがそれでもかろうじて明け方の新宿二丁目に居る酔い潰れたオネエのような崩れた女座りを保ってグッタリしていると、今度は別の警備員がやって来て「涼しいところで休んだ方がいい」と冷房の効いたロビーの席に腰掛けさせてくれた。そしてしばらくロビーで休ませてもらい、もう大丈夫かな?と再び外に出たらやっぱりダメで、でもまた邪魔なところでうずくまると怒られるから、自ら駐車場の端っこの、白い小さな花の咲いた花壇の陰に身を隠す。

 しかしアスファルトの照り返しも熱く、気分もますます悪くなるどころか持ち前の過換気症候群が勃発し、座ってもいられないので熱いアスファルトに倒れ込む。「換気症候群とは、ストレスなどの原因で呼吸過多になり、頭痛やめまい、手の指先や口のまわりのしびれ、呼吸困難、失神など、さまざまな症状を起こすものです。過呼吸症候群ともよばれています。呼吸が速く浅くなって、空気を吸い込みすぎる状態になり、血液中の二酸化炭素が少なくなって起こります。呼吸をしているのに空気が吸い込めないと感じて、「このまま死ぬのでは」といった恐怖にかられます。傾向として、男性よりも女性、しかも若い世代に多く見られますが、これが直接的に命にかかわることはありません。」(日本医師会ホームページより)
 というワケでただの過呼吸だし自身の経験からもしばらく横になって休んでいれば落ち着くので、人目に付きにくいこの花壇の傍で横たわっていればそのうち回復する見込みなのである。

 しかしいくら人目に付かないと言っても完全に見えない場所ではないので、通りがかりの人や区役所の職員であろう人などもチラッとこちらを見るものの皆無視して通り過ぎて行き、何なら汚物を見るかのように一瞥されるのである。無慈悲!
それもそのはず、痺れにより手は曲がりくねり、半目を剥いて前衛舞踏のような姿で転がって時々ビクンビクンと脈打つだけの物体と化しているのだから。ホームレスか、そういう路上パフォーマンス(?)とでも思われてそう。
でももしこれが小綺麗な格好をした若い女性やきちんとスーツを着た立派な男性だったら皆同じように見て見ぬふりをするだろうか?見た目って大事…と、この期に及んでルッキズムについて考えてしまったり。

 …暑い。遠くで雷が鳴り出して一雨来そうだ。
 眼前の蒸したアスファルトの上を蟻が歩いている。
 その蟻が自分の体に這い上がるのを感じる。
 花壇の白い小さな花がたくさん散っている。
 この花、なんていう名前だったかな?
 確かこすると石鹸の香りがして、子供の頃よくそうやって遊んだような…

そんなとめどもない数々が頭の中をぼんやり横切るだけの時間。
現実と乖離された夢のような苦しい時間。

 しばらくすると上下作業着の男性がやって来て「大丈夫ですか?救急車呼びますか?」と声を掛けてくれた。でももう唇も痺れてるし、とっさに上手く返答が出来ずにいるとその男性が警備員を呼んでくれたのだが、来た警備員というのが最初に「ここ邪魔だから」と僕をどかした警備員だった。そしてその警備員が今度は何を言うかと思ったら「この人、さっきもこうだったよ。(だからほっといていいんじゃない?のニュアンス)」だったので作業着の男性もそのまま立ち去り。無慈悲!

 別に助けて欲しいワケじゃない。
 ここでしばらくこうして横になっていればいいんだから。
 だから、どうせなら完全にほっといて欲しい。

 しかしその願いも叶わず、またも通行人に発見され今度は区役所の職員達にも取り囲まれる。とりあえず救急車をという流れになったもののコロナ禍なのと熱中症患者も多い時期なので119番に全然電話が繋がらないらしい。
炎天下に転がしとくのも…って事で車椅子に乗せられ区役所の玄関先に収納される。
経口補水液のゼリー飲料版みたいなのを渡されるが吸う力もなく、車椅子の上で前のめりに歪んで折りたたまれた体によって押し出されたゼリーが一度は口に入るもボトボトと足の甲に落ちるだけ。
体はたまに痙攣し、目はきちんと開かなくなる代わりに涙がどんどん出て来て、涙と鼻水とゼリーで顔をグシャグシャにして白目剥いて、そういうフェチの人にはたまらない形相になりながらしばらく待っていたら救急隊員が到着したみたいだけど、今度はベッドが空いてる搬送先がなかなか見付からないらしい。

 救急隊員にそれを告げられ、どうしたいか訊かれたので「とりあえず横になりたい」と文字通り息も絶え絶えに返答すると、区役所の人にどこかロビーに椅子並べてでも横に出来ないかたずねてくれたんだけど「他の来庁者の目もあるし、もうすぐ閉館時間だから」と拒否される。無慈悲!役所閉まるの17時だから、もうそんな時間?
この場で横になれないなら搬送してもらった方がいいですと再度伝えて、なんとか病院を探してもらい「応急処置用のベッドしか空きがないから100%帰宅出来るなら」という条件の病院へ搬送される事に。

 ストレッチャーにくくり付けられ救急車に揺られ、どこかの病院の処置用ベッドに移されて、点滴と血液検査の準備が行われているのを感知すると今度は注射恐怖症を起こしてベッドで暴れる情けない中年。「ベッド壊れるから!」と若い看護師に叱られ、体を押さえつけられながら点滴投入。医師が「点滴に赤玉入れといて」というのも聞き逃さず。赤玉というのはもう禁止になった鎮静剤の俗称なのだが、この病院では鎮静剤の事を全般に赤玉と呼んでいるのか、それとも在庫処分に使われたのかは知る由もなく。
更にハーフパンツをめくられ下着をズラされてキンタマの横辺りの鼠径部にも針をブッ挿そうとしてくるのでますます暴れてベッドから落ちそうになるわ枕に噛み付くわのイヤイヤ期真っ盛りおじさん。動脈の血液検査らしいが、もういっそ殺して!(大袈裟)って感じだし、なんならパイパンなのがちょっと恥ずかしいし。

 とりあえず点滴刺さって安定しやっと落ち着いてしばらく静かに横たわってると、点滴に混ぜられた鎮静剤が効いてきたのかトロ〜ンとしてくる。そこで医師からの問診。当然呂律も回らないので、鎮静剤入れた後で問診する?と思ったけど、他にタイミングないわなー。
 血液検査の結果、やはり過換気症候群で(知っとるわ!)他に特に異常もなく、ただ体内の酸とアルカリのバランスがおかしいと。市販の解熱剤などを乱用してるとそうなるらしいがそれはしてないので、じゃあ栄養失調気味だと。(昔からなぜかそう言われるんだけど!それでも生きてるんだけど!)あとは過換気による一時的なものかもと。
全部自分で知ってる事を改めて報告されただけで、点滴が完全に終わるまでボーッとしたりウトウトして、点滴終わったら処置も終わりって事で、鎮静剤がまだ効いた弛緩した体で帰宅。

 救急車で運ばれると自分ではどこの病院に行ったか判らないから病院を出た時の浦島太郎感すごくて、ここどこ?みたいな。
もうコレは搬送先ガチャみたいなもんなんだけど今回はわりと当たりで、駅までも近いし家からもわりと近め(2駅)の病院だったのが救い。遠かったりすると更に気が重くなるので。
そしてまた知らん病院の診察券ばかりが増えるのであった。

 道端に誰かが倒れてたら貴方はどうしますか?
 助ける?ほっとく?相手の身なりによる?時間があれば助ける?
 助けた相手がただの過呼吸で、搬送先の病院でちょっと休んだらもうケロッとしてても?
 ほっといてもらってた方が早く楽になってたかもなんて思われても?

 僕は声かけちゃうな〜