2014/01/21

秘密銀行

 しょっちゅう職務質問をされるような風貌なのにも関わらず他人から悩み相談を持ちかけられたり秘密を打ち明けられたりする事が多いのはなぜだろうか?
何もわざわざこんな反社会的な人間に相談しなくても…と我ながら思ってしまう。
普通こんな鼻ピアス野郎に相談しねーだろ。

 それでも考えられる理由の一つとしては、僕がわりと聞き上手な事。僕はよく喋るようで実は相手が言った事へのリアクションがほとんどで自分から発信していない場合が多い。会話を振られたらよく喋るけど振られるまでは意外と大人しいタイプ。
それと、一を聞いて十を知るように、1つの案件に対して複数の見解を提示する事が出来るのと、あとはオプションとしてその見解がいい意味で(悪い意味でもだけど)世間一般と異なって新鮮味があったりもするから、などが挙げられる。

 が、しかし僕だってこんな自画自賛みたいな事を普段から触れ回ってるワケじゃないので、皆どこでどう嗅ぎ付けるのか僕に相談事を持ち込んで来ては秘密を打ち明ける。

 悩みを相談するのはいい。僕も自分の考えるベストな答えを出そう。
しかし秘密を打ち明けるのはいただけない。

 なぜなら秘密というのはどうも厄介なもので、打ち明ける側は「あなただから言うけど実は…」と相手を信頼する姿勢を見せる事で相手からの信頼をも強要し、打ち明ける事で一方的にスッキリして解放されるのに対し、秘密を打ち明けられた者は十字架を背負わされゴルゴダの丘に向かうキリストのようにこれからの人生を他人の重荷と共に歩まなければいけなくなる。そんなのまっぴらごめんである。

 しかし皆まるで痰壺かのように僕に秘密を吐き捨てていくので僕の中に他人の秘密が積もり積もって、小高い、それこそ磔刑に相応しい丘が出来上がるのだ。
そしていつしか自分がその丘の上で処刑される。

 それ防ぐには秘密をバラすに限る。
秘密というのは置き換えれば大概は弱味であって、僕に秘密を打ち明けた人は僕に弱味を握られたも同然、今さら後悔しても遅く、他人に秘密を打ち明けるという傲慢を恥じるがいい。

 しかしここで気を付けなければならないのは秘密にも賞味期限があるという事。
秘密はナマモノなので、もったいぶって寝かせておいても腐ったりカビが生えたり他の誰かの口から先に洩れてしまったりするのでタイミングを誤ってはいけない。
ギリギリまで置いておいて、ここぞという時にバラす。
そして秘密をバラす相手も厳選し、いちばん効果のある相手を選ばないとただの秘密の無駄遣いになってしまう。

 大体僕は口が固いなんて自分で言った憶えもないし、勝手に打ち明けたのはそちらなので僕も好き勝手にバラしていいはずなのだ。
「本当の事」なんていつも醜い。他人の醜さを背負って生きるほど僕はお人好しじゃない。自分の醜さで精一杯。

 皆が僕に預けた秘密、そろそろ満期なので利子を付けてお返し致します。

 なんて事を他人から秘密を打ち明けられる度にふと思ったりするのは、ここだけの秘密。