恋人同士がイヤフォンを片方ずつシェアするのを見る度に不思議に思う。片耳だけしか聴こえない状態がストレスではないのか?
僕はよくイヤフォンを断線させてしまう悪い癖があるのだが、その場合大概LだかRだかの片方だけがある日突然聴こえなくなり、なんとかケーブルの角度を変えたりいじってみるとまた気まぐれに聴こえたりするものの手を離すとアウトとか、もうその時の苛立ちといったら中華料理店の厨房で中華鍋を包んで立ち上る炎の如く。激しい火力で美味しいチャーハンの出来上がりですよ。
断線の場合は不可抗力だけど恋人達はわざわざそんなイライラする状況を作り出しているのだから信じ難い。
しかもその音源がもともとモノラルならまだいい。ステレオの場合どちらかのチャンネルしか聴こえないのであるから、一方はベース音のみ、もう一方はハイハットだけなんてのもあり得るワケで。
そんな状態で音楽を聴いて一体何が楽しいのか!?
しかし恋人達は実に楽しそうに、時折目配せをしながら微笑み合ったりじゃれ合ったりしている。
片方だけでもいい、お互いに同じ物を共有している、ただそれだけで嬉しいのだ。
それは解る。それは解るから、じゃあ分配プラグ使おうよ!
1つしかないジャック穴を2つにするヤツ売ってるから !そうしたらプレイヤーが1台でも2つイヤフォン挿せてお互いステレオで聴けるからそうしようよ!
ところがそんな恋人達はまず見かけない。
恋というのは不完全なものであり、2人で1つなのだ。
片耳ずつのもどかしさこそが恋の楽しさ。
かつて小指と小指を結んでいた赤い糸は、耳と耳を繋ぐイヤフォンとなって2人の間で揺れている。
そんな恋人達で溢れる幸せな世界を横目にしっかりと両耳にイヤフォンをして大音量で音楽を聴きながら歩いては車の走行音に気付かず危うく轢かれそうになるという日々を送っています。