何を血迷ったかジョギングを始めてみた。
走るのなんて大嫌いなはずなのに、最近特に著しい体力と新陳代謝の低下に抗うためにある日突然走り出した。
いざ走ってみると意外と走れるというか、もっと息も切れぎれの苦しみを予想してたけど案外そうでもなく。
さいわい近所に大きな公園があるので緑道を行く。暑くもなく寒くもない気温も手伝ってか夜の木立の間を駆け抜けて行くのは何だか気持ちが良い。
いや、待て。気持ち良いなんてそんな爽やかな思考の人間でない事は誰よりも自分がいちばんよく知っている。
運動なんて疲れるだけでちっとも楽しくないというのが長年のモットーだったはずだ。汗をかく事は恥ずかしい事であるはずなのだ。
大体、夜中に走っているなんてただの変質者だ。
変質者ならまだいいが、長い髪をたてがみのようになびかせながら暗闇の中を疾走する姿はさながら妖怪に近い。
軽く都市伝説である。
そんなもんに遭遇してしまったらたまったもんではないが、夜とはいえ同じくジョギングしている人達がちらほら居てジョギング初心者としては心強い。勝手に親近感が湧いてすれ違いざまに会釈してみたらシカトされたりして。
イヤフォンからアップテンポの曲を流しながらひたすら走る。
ちょっとした起伏や坂道などの路面状況を足元で感じ、過ぎ去る景色の数々と共に風になる。
体の芯が痺れたように熱くなってくる。だんだんと汗ばんでくるのが判る。
体が熱を作り出し、風がそれを冷ましていく。まるで自分から蒸気が出ているような感覚。
生きているという事。生命の躍動。
ふと足元に異変。見事に犬の糞を踏んでいた。
やっぱジョギング嫌い。