行きつけ、というほどでもないがよく行く近所のカフェでたまに遭遇する女性がいる。
色白で華奢な40代前後の女性。
それだけでは特に目を引く事もない控えめな存在だが、彼女は違った。
常時、首が揺れているのだ。
それはまるで不二家の前のペコちゃん人形のように、もしくは郷土玩具「赤べこ」のようにユラユラと揺れている。
文庫本を読む彼女、コーヒーを啜る彼女、一見何でもない日常風景も彼女の首の揺れでまるで違った風景に見える。
チック症の一種だろうか、休む間もなく揺れ動く首元にコーヒーカップを近付ける時、揺れでコーヒーがこぼれないだろうかとこっちが心配になる。
それにしてもこの女性、その地味で薄幸そうなルックスと揺れが相俟って何となく幽霊を連想させる。
柳の下に立っていればこの世の者か疑うだろう。
そんな幽霊じみた非日常的存在が、カフェという日常風景に混じった違和感が独特で、ついついいつも盗み見てしまう。
そして思う。我々から見た彼女は常に揺れているが、彼女から見た世界も常に揺れているんではなかろうか。
不安定に揺れる世界の中で彼女は何を想っているのだろうか?
それはいつも独り無口な彼女からは知る由もなく、今日も彼女は静かに揺れ続ける。