2015/01/05

八代亜紀について

 年末にアートディレクターの信藤三雄さん主催の忘年会にお邪魔してきた。
忘年会というよりはほとんど音楽フェスで、恵比寿ガーデンホールを貸し切って昼から夜まで2つのステージで様々なアーティストが演奏し、飲み物や食べ物を片手に行き来するフリーなスタイル。

 参加アーティストもそうそうたるメンバーで、UAやホフディラン、横山剣に野宮真貴、他にも様々なバンドやDJがパフォーマンスをする中、大トリを飾ったのが八代亜紀だった。

 演歌の女王でありトラック野郎の女神・八代亜紀がジャズアルバム『夜のアルバム』を小西康陽プロデュースでリリースしていたのは知っていたけど、この日もそのアルバムを引っ提げてのジャズライブ。
小西康陽といえば夏木マリをはじめ弘田三枝子や和田アキ子、水森亜土など才能のある熟女を発掘し、若者層にも支持させる「熟女再生マシーン」でもあるので、お得意のプロジェクトだったであろう。

 そんな小西さんがDJ後に八代亜紀を紹介し、バンドが静かに演奏を始めると、真っ赤なドレスで登場する八代亜紀。
少しトークをしてからバックで流れている音楽に合わせて、まるで息をするかのようにスッと歌に入る。その肩の力の抜け具合が非常にカッコ良かった。
終始リラックスした様子で、ハスキーで思わず大人なお酒が飲みたくなる魅惑のウィスキー・ボイスに時おり妖艶な八代スマイルを覗かせながらジャズのスタンダードナンバーを歌い上げる。

 なんでも八代亜紀はクラブ歌手だった十代の頃にはジャズを歌っていたそうで、いわば原点回帰のようなものだけど、演歌や歌謡曲を辿ってきた「今」の彼女自身の確かな道のりが感じられる歌いっぷり。
『夜のアルバム』は世界配信されていてジャズ部門で上位にチャートイン、ニューヨークなどでもライブを行ってきたそうだ。

 英語曲や訳詞の曲に混ざって演歌の代表曲「舟唄」や「雨の慕情」もジャズアレンジで。
ちあきなおみとかもそうだけど、本当に歌の上手い歌手はどんなジャンルでもどんなアレンジでも自分の歌にしてしまうんだな~と、感嘆しながら酔いしれる。

 飄々とスウィングする八代亜紀の姿に、日本人離れしながら日本人臭いという不思議な感覚を見つけ、そして何よりも彼女が魅力的だったのは歌唱力もさることながら合間に入れるMCの可愛らしさ!
自分の事を甘えたような声で「八代さんね、」と語るチャーミングさに加え、とらえどころのない少女性のようなものが垣間見え、それが歌ってる時の気迫や夜の香りとはまるで正反対のペルシャ猫のようなフワーっとした愛らしさがあり、いわゆる「ギャップ萌え」をさせてくれたのであった。

 猫といえば八代亜紀は絵も達者で海外の絵画展に入選してるほどだけど、ファンシーな猫をよくモチーフにしてたりするので本来がそういう可愛らしい人なのだろう。

 とにかく本当にすごく可愛くて一気に好きになってしまった。歌謡界のマリリン・モンローと呼びたい。
いくら歌が上手くても人柄がイケ好かなければこうはならないので八代亜紀の人徳である。
早速『夜のアルバム』はもちろん演歌集も手に入れて聴き込んでいる。毎日スナックに居るかのようだ。
時に切なく時に囁くようなハスキーボイスやビブラートも、こちらの頭蓋骨にまで響くロングトーンも、まるで八代亜紀という一つの楽器であるかのように表現豊かで素晴らしい。
しかしながらこれも歌の上手い人の特徴で、録音された物より生で聴く方が数段良いので困ってしまう。

 それほどまでに、久々に本物の歌手による「歌」を体感したライブだった。