ゴキブリコンビナートという、キツイ・キタナイ・キケンの3Kでお馴染みのガテン系劇団の本公演『ゴキブリハートカクテル』に出演させてもらった。
通称:ゴキコン、小演劇界はもとより最近では酉の市での見世物興業、アングライベントへの出演などでサブカル界隈でも名を馳せる団体である。
その過激さと汚さから出禁になった劇場は数知れず。
それでもひたむきに、不幸な宿命を背負った人々が絡みあって堕ちて行く悲哀と狂気をミュージカル調で描き続け、それがまた3Kと見事にマッチし猥雑で生々しい性表現と融合してゴキコン特有の様式美にまで発展、全くブレない劇団として君臨している。
肉体を駆使する事でも有名な劇団だが、今回参加してそれを文字通り身体いっぱいで味わった。
大量の木材で組まれたセットの中を皆裸足で駆け巡り、転げ回り、喚き叫び、今時のちょっとオシャレでスカした演劇とは真逆のアプローチをただひたすら突き進む。
もしかしたら時代遅れな表現手法なのかもしれない。でもだからこそ他ではなかなか体験出来ないので、そういうモノに飢えている人々がこぞって来場し、たとえ汚れたり濡れたりしても満足気に帰っていく。(中には本気で嫌がる人もいるけど。)
客も覚悟が要る劇団なのである。
僕も以前ゴキコンを観劇した時に、笑いながら観ていたら、役者がアレルギーについての歌を歌いながらおもむろに握り潰した鯖(もちろん生)の肉の破片が飛んで来て口に入った事がある。
今回出演する側になって、自分の肉体に向き合うという事を改めて認識した。
それは演出でも体の動きへの意識について「舞台上に居る時は手足の指の先にまで意識を向ける」「セリフを言ってから動き出すのではなく、セリフを言いながら動く」など教授があり勉強になったからというもあるけど、現場に入って実際動いてみて学んだ事が大きい。
なんせ、しんどい。
今回の公演は順路形式でお客さんが20分毎に入場してくるので、その都度演目をループしなくてはならない。それを3時間ぶっ通し。
お客さんは一巡すれば終わりだが、役者陣はひたすら反復である。
今回僕は、小高い場所から飛び降りて登場→一通り世界観の説明や観客強制参加コーナーをやって便器をくぐり地下へ→本物の水を使ったスロープ状の下水の川の上流と下流を往き来しながら暴れて退場→ハシゴを昇り元の小高い場所でスタンバイ…という段取りだったのだが、特に初日は繰り返していくうちに段々と時間の感覚がなくなり、でも確実に疲れてきて、3時間のうちの最後の方はセリフを怒鳴る度に腹筋が痛み、ハシゴに昇るのがしんどくてしんどくて、それをやっとの思いで昇りきっても次のお客さん達の声が聞こえてきて休む間もなくまた飛び降りて…という地獄のルーティンワーク。
僕はもともと運動が嫌いで普段も全然体を動かさずひっそりと暮らしているタイプなので初日は死ぬかと思ったが、人間とは図太いもので翌日からは体が慣れてきて何とかこなせるように。
(ただ声は初日後に枯れ始めていたので舞台裏にのどスプレーを常備し1セット終わる度に噴射。4日間の公演でのどスプレー2本使いきる。)
くれぐれもケガには気を付けていたものの、終わる度に増えている擦り傷・切り傷とアザの数々。
テーピングなどで保護するも水場ですぐ取れてしまい意味をなさず。
最終日前日くらいだろうか?いつの間にか足の裏にえぐれた傷があってそこから雑菌が入ったのであろう、ズキズキと痛むように。
傷自体は大した事ないのだが足の裏だから歩くとどうしても刺激してしまい悪化したらしい。
本番中はアドレナリンの作用で全然平気なのだが、それが逆にいけなかったのか、最終日が終わる頃には足の指が真ん丸になるほど腫れ上がりひどく痛くてびっこを引くようになってしまった。
ゴキコンは本番を全て終えるとそのまま翌朝までセットをバラし撤去、明け方に仮眠を取ってから春日部にある倉庫まで木材を戻しに行くという、本番と同じくらいハードなバラシ作業があるのだが、足がいよいよ痛くなってヨチヨチとしか歩けなくなってしまい、ほうきとチリ取りを持ってそんなんだから「お掃除ロボット」と揶揄されながらもチマチマと作業をしていたのだが、明け方の仮眠後ついに戦力外通告を受け春日部まで行けずリタイア。不甲斐ない事この上ない…。
しかしこんなケガをするのも何年ぶりだろうか。
大人になるとケガすらなかなかしなくなる。
子供の頃も病弱だったのであまり激しく動くと苦しくなり、ぼんやりとみんなの体育の授業を見学していた子だったのだが。
その反動からか、体を思いきり動かして無茶をするのが非常に楽しくて充実した日々だった。
幼少期の隠されていた鬱憤が中年に差し掛かる今花開いて妙な爽快感すらある。
肉体酷使という自分への内なるエンターテイメント。
特に、下水の川の上流から下流へ思いっきり滑り降りるの、あれは楽しかったな~!一人ウォータースライダー。足を突き指したりしたけど。
よく「自分の身体と向き合うワークショップ」みたいなのあるけど、自分の体に何が出来るのか、どこまでが限界なのか、ケガをした時にはどう対処するのがベストか、など、そんなの現場で実際に動いてみないと判らない。
そしてゴキコンの公演はそれを身をもって学べる。
僕が今回いちばん学んだ事は、「ケガをしたらすぐ消毒」。(普通?)
そういえばもう一つ学んだ事がある。
今回観客強制参加コーナーでは箱の中身をお客さんに触らせて当てさせるクイズがあったんだけど、そこはゴキコン、中身がヤスデやミルワームやゴキブリで、僕はワーム系が大の苦手で、見るだけで無理無理~!ってなってたのだが、公演終わる頃には素手で扱えるようになり、人間て成長するんだなと思った。
しかしそのミルワームをバラシの時にエキストラ参加の伊藤さんがむしゃむしゃと食べ始めた時はさすがに絶句だったが。