いつもなぜかインド人から視線を浴びる。通りすがりにビックリした顔で二度見されたり、先日は秋葉原でいかにも観光という風情の、どこかの土産物屋で買ったであろう日本刀を模した雨傘を背負ってワイワイ楽しそうにしているインド人達が何やら一生懸命片言で話しかけてきて、どうやら写真を撮って欲しいみたいなのでカメラを受け取りレンズを向けると、そうではなく、僕を撮っていいか訊いていたのだった。
別にいいけど、一体なぜ…!?と戸惑いながら、みんな一緒に写るのかと思いきや独りポツーンと立たされてシャッターを切られる。またも片言で礼を述べられ、モニターを見てハシャぐインド人達。一体僕の何がそんなに楽しいのだろうか?
あまりにもこういう事が多いので自分なりに分析してみたが、まずはおそらく鼻ピアスをしているからだろう、という結論に至る。
インドといえば鼻ピアスのイメージがあるが、インドでは鼻ピアスは女性がする物なので、インド人からしたら鼻ピアスをした男はスカートを穿いた男のように性的倒錯した存在に映るらしい。
しかしインドの田舎に僕が行ったならまだしも日本に来てるインド人なんて都会の人だろうからファッションとしての鼻ピアスくらい知識にあるだろうし、日本でも鼻ピアスの男は他にも見てるだろうに。
そんな鼻ピアスと関係があるのかは分からないが、インドでは宗教上、結婚するまで男女の営みがNGなので男同士で済ませる事があるらしく、実際そういう目的のインド人男性からナンパされた事すらある。
なんつーか、切羽詰まってたんでしょうなぁ…。
本当は女とヤりたいけど仕方なく男とヤる場合、屈強な男性ホルモン溢れる男よりは僕のように華奢で髪が長い男を選ぶのは分からなくはない。分からなくはないが…!!!
まして鼻ピアスですからね、狙われやすいのかも。
(そういった宗教上の規制があるからか、インドでは男の友達同士が手を繋いだり木陰で膝枕してる光景なんかが普通に見られるらしい。)
しかし僕に振り向くインド人が全て性目的なワケはないだろうし、そうだったらめちゃくちゃ怖いし。
じゃあ一体なぜなんだ?とまた考えても答えは出ず謎のまま。
そんなインド人に好かれる(?)僕だけど、実は僕もインドが好きなのである。
文化や美術に非常に惹かれるし、日本以外に心の故郷があるなら多分インドなんじゃないかと思ってるくらい。
まあ行った事すらないんだけど。
行った事ないからこその身勝手な憧れ。実際はガンジス河に死体が流れ、物乞い達は憐れを誘うために自ら手足を切り落とし、レイプが流行してても、それでも僕にとっては魅力的なインド。
世界でいちばん美しい言語はフランス語だそうだが、おそらくそれはフランス人が勝手に言ってるだけだと思うし、インドのタミル語なんかの流れるようなアクセントは耳にとても心地よく(何言ってんのか全く判んないけど)、文字の形態もすごく美しいと思う。
インドは神話もかなりヤバくて、どうしても倒せない敵に困り果てた神々が寄り合ってそれぞれがオデコから光線を出し、全ての光が重なったところから最強の女神が誕生、神々は自分達が持ってた武器を彼女に捧げ(女神は腕がいっぱいあるので武器もいっぱい持てる)敵の軍団を壊滅、女神の怒りが頂点に達した時に顔が黒くなりオデコが割れて、そこから更に殺戮に特化した黒い新女神が誕生とか…サイケデリック過ぎて何なの!?って感じで大好き。
宗教が文化に与える割合がとても大きく、神話の映画化やドラマ化もたくさんされていて、それがまたヤバくて。
先ほどの女神のシーンなんかもCGで腕を増やした女優が目を引ん剥いて舌をガーッと出し刀で鬼の首を斬り取って血が滴ったりと。アグレッシブにも程がある。
思えばインド神話は子供の頃にハヌマンという猿の神様の絵本が家にあってそれが大好きだったので、三つ子の魂百までというか、幼少期の刷り込みが今に至っているのかも。
インドは言うまでもなく"ボリウッド"と呼ばれるくらいの映画大国で、主に北でシリアスな映画、南で大衆娯楽を量産、日本でも大ヒットした『ムトゥ踊るマハラジャ』は、本当に面白い映画を10本挙げろと言われたら迷わず入れるであろう、ザ・エンターテイメント。(ただし昭和風味。)
インドの娯楽映画は喜怒哀楽をはじめ嫉妬や色気など人間の持つ感情の要素を全て盛り込むのが流儀だそうで、しかも途中で歌や踊りが入るので長い。
『ムトゥ』もインターバルを挟んで3時間くらいあるのだが、その長さを感じさせないほどの骨太い直球勝負。その中にもやはり宗教やカーストなどの要素はもう当たり前の物としてある。
そうしてこっそりインド映画を観たりインド神話の本を読んだりシタールの音色に酔いしれたりして(ビートルズのジョージ・ハリスンも一時期インド音楽に傾倒し、あのラヴィ・シャンカールにシタールを師事していたほど。映画『ワンダーウォール』のサントラとか最高ですわ~!)、すっかり隠れインドファン(なんせ行った事もないから)なのだが、僕のそのインド好きがインド人に伝わってしまうのだろうか、何か波長のような物が合ってしまうのか、今日もインド人は僕を見つめ、僕もインド人を見つめるのである。