2018/04/12

職質魂

 PC作業に疲れてフラリと缶コーヒーを買いに出た真夜中、歩道を歩いていると向かいの車線に停まっていたパトカーの前後のドアが勢いよくバタンバタン!と開き、警察官が4名、鬼の形相でこちらヘ駆けてくる。

 そんなに急がなくても…と心の中で苦笑しながら、職質される側のプロとして恥ずかしくないよう堂々たる落ち着きをもって対応する。
通常職質は警官2名体制なのでそれ以上の人数である事は珍しく、しかもずいぶん慌てた素振りで車道を走って渡って来ている(=警官なのに交通ルールを無視している)くらいなので、よっぽどのタマだと思われたのだろうか。
しかし残念ながら当然やましい事もないので何事もなく終わり、こちらもプロとして「ご苦労様です」と公務員達を労う事も忘れない。

 ここでおさらいしておこう。職質、すなわち「職務質問」とは?
" 警察官職務執行法第2条に基づいて、日本の警察官の職務上、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる必要最小限に用いられる行為である。"

 合理的に判断して怪しいんですね、僕。どんだけ~!?

 しかし上記の"相当な理由"について今までに警察官から適切な答えをもらった事はない。けっきょくは「見た目が怪しい」という決め付けでしかないのだ。

 昔はそんな煮え切らない原因を腹立たしく思って職質時に抵抗する事もあった。
しかし職質を拒めば拒むほど警察官が警察官を呼び、結果、道端で大勢の警察官に囲まれるという、なんかもうただただ恥ずかしい羞恥プレイに発展するだけなので、その無駄な時間を警察官への逆質問へ充てるようにしている。

 どうして僕を怪しいと思ったのか?という問いに今まで返ってきた回答は「頬がコケてるから」(じゃあデブには犯罪者が居ないのか!?)、「迷彩柄の服を着ているから」(自衛隊は全員犯罪者!)「顔にピアスがあるから」(オシャレです。)などなど、非常にバカバカしい理由なのである。
僕の場合は主に薬物か刃物などの危険物を所持していると思われるようで、更には「なぜ爪に黒いマニキュアを塗っているのか?」とか訊かれる始末。別にいいじゃん!と思うものの、とりあえず相手を納得させるために「ビジュアル系のバンドやってるんで」とか言うと、アッサリ引き下がるのもそれはそれでどうなの!?みたいな。

 最近の不満は職質するならするで徹底的にしろ!という事で、所持品検査の際には「パンツの中に薬物隠し持ってるかもよ?パンツの中は見ないの?ねぇねぇ」って自ら言うんだけど警官達はそこまでは調べない。勝新太郎だってパンツの中に大麻を隠してたんだから!と説得するも「いや、大丈夫です」とか言われたり。やるなら徹底的にやれよ!検挙率上げたいだろ?日本の治安のために俺のパンツの中を見ろよ!と思う。

 このように警察官とコミュニケーションを取るというのは楽しいもので、殺伐とした職質現場が明るく朗らかになるものだ。
一度職質時に両手を挙げ他の通行人に聞こえるように大声で「撃たないで!お願いだから命だけは助けてください!撃たないでー!!!」と連呼してたら「手を下ろしなさい!」ってさすがに怒られたけど。
この前は私服警官で工場の作業着みたいの着た人が近付いて来たから何かと思ったら、上着の前をバッと開けて首から下げた金色に輝く警察バッジを見せられて「警察の者です」って言われたもんだから、「今のカッコイイからもっかいやって!動画撮りたい!」(※警察官は公務中プライバシーが無いので肖像権は発生せず)って言ったら「やめて…」って言われたし。恥ずかしいならやるなよ~。

 でも世の中ギブ&テイクだと思うわけね。こちらは任意で応じているわけだから、そちらからも何かあってもいいんじゃない?という公平な考えから、最近は職質時にピーポくんグッズちょうだいっておねだりしてるんだけど「あれウチらも金出して買わなきゃいけないんだから~」って言われたり。
あとはやっぱり融通利かないとこかなぁ。新宿で職質されて5分くらい歩いて新大久保でまた職質されたり。「さっきされたんだけど!?」って言っても管轄が違うからダメと。今だったら軽く顔写真でも撮ってデジタルで共有出来るだろうに。
あとは男女差かな。圧倒的に女性はされないよね。セクハラ問題とかに繋がりそうだからなのだろうか?婦警がやればよさそうだけど。

 などなどまだ職質に対しての不満はあるものの、される側のプロとしてはもう警官が近付いて来た時点で「職質でしょ?いいよ~ん!好きなとこ好きなだけ見て♪」とフレンドリーかつオープンマインドで接するのがいちばん手っ取り早く済むのでそうしている。

 考えてみればもうお巡りさんの方が年下だったりするのだ。若い過ちというのは誰にでもある。
この前その作業着を着た私服警官の若い方に持ち物を見られ、いつもクラッチバッグに細々とした物を入れてるんだけど、その日はツボ押しの棒を入れてて、ちょっとアダルトグッズに見えなくもない、でも木製だしどう見てもツボ押しの棒なんだけど、それについていやにしつこく訊かれ、「コレは何?」「え、ツボ押しの棒…。」「ふーん、誰の押すの?」「いや、自分…。」「コレでこう、グッと押すわけ?」「そう。」「ふーん…。」てとても怪訝な顔されたよ。

 やはりベテランは違って、こちらが職質に協力的だと機敏に察して要領よくパパッと形式的にだけやってくれたりもする。そういうお巡りさんにはご褒美として薬物の売人であろう人間の情報を与えたりもする。警察官が職質するのと同じで売人らしき人間も僕によく声を掛けてくるのだ。道端で普通に「シャブいる?」とか言われるからなー。そういう不審者があそこに居ましたよ、とタレコミをするのである。そうするとお巡りさんからは感謝されこちらの株も上がるというものだ。(逆にその件について色々訊かれて話が長くなってしまう場合もあるが。)

 職質する側もされる側も人間なので礼儀や愛想は必要だ。お互いが気持ち良く「今のはいい職質だったな」と思える職務質問を夢見て、今日も真夜中に缶コーヒーを買いに出る。