嫌われ者は真夜中の暗い部屋で煙草に火を着ける。火は周りの闇を照らす事もなく橙色に発光して、まるで美しい鉱石のようだ。
煙が、少しだけ開けた窓の隙間に吸い込まれて流れていく。
何でもない時間だけが過ぎて、輝く鉱石を灰皿の吸い殻の山に埋め込むと、一筋の吐息を残して辺りはまた真っ暗になる。
溢れかえった吸い殻達を見て嫌われ者はこう思う。
「こんなにたくさん友達が居たらいいのにな。」
僕が愛されないのはなぜだろう。
みんなはなぜ愛されるのだろう。
SNSを覗くと、僕の知ってる人達が僕の知らないうちに集まって楽しそうにしている。僕はなぜその場に呼ばれないのだろう。
誰かの誕生日会に呼ばれる事はあっても、なぜ僕の誕生日会は開かれないのだろう。
嫌われ者は考える。それでも自分は嫌われているわけではない、と。
だってその場に居れば面白がられるし、SNSだってブロックされてないし、会えばみんな喋ってくれるし。
でも輪には入れてもらえない。
みんなの楽しそうな姿をあとから知るだけ。
そういえばよく僕と話すと緊張するって言われるけどなぜだろう。
僕が遊びたいというと戸惑われるのはなぜだろう。
実はみんな気を遣って僕と喋ってくれているだけで本当は嫌いなんじゃないだろうか。
中途半端に距離を置かれるくらいならもっと露骨に嫌ってくれた方がいいのに。
僕はどうしてみんなから遠いのだろう。
嫌われ者は睡眠薬を一粒、口に放り込んで冷たい水で流し込んでからまたぼんやりと考える。
人が何かを愛する時には、そこに価値を見出だすからだ。
他人から愛されない自分には、価値が無いからだ。
無価値な存在。ただそこに在るだけ。
煙草の煙とよく似ている。
「好き」の反対は「嫌い」ではなく、「興味がない」だという。
みんな僕を嫌うほどではなく、ただ興味が無いだけなのだ。そして僕には人に興味を持たれるほどの魅力が無いのだ。
じゃあどうすればよいのだろう。
どうすれば魅力的な人間になれるのだろう。
どうすれば愛される人間になれるのだろう。
嫌われ者は一生懸命考える。
でもいつも分からなくて、いつもここで朝が来てしまう。
街が目を覚ます前に布団に潜ってその暗闇の中に逃げ込む。睡眠薬の欠片よりももっと小さな涙が一粒、目尻から枕に落ちて、すぐに乾いた。