2019/11/13

大団円:後編

 小劇場系の劇団は予算がないので稽古も区民センターの狭い部屋なんかでやってたりするんだけど、今回はさすが商業演劇、稽古場も実寸が取れてる!とそんなとこにもいちいち感動したものだが実際の寸法が取れてるのはあくまでステージ上の面積であり会場全体の広さではない。今回の会場だった新宿FACEは普段プロレスなどやっているのでステージが真ん中にありその四方をお客さんが囲むという形。余談だがこの会場、昔はLIQUIDROOMというクラブ(現在は恵比寿に移転)で向かいにあったCODEと共に新宿の大箱として賑わっており週末のイベントによっては長蛇の列が出来るほどで、年末にはよく石野卓球が年越しカウントダウンのDJをしたりなんかしててクラブキッズだった僕もしょっちゅう踊りに通ってて、フロアの客がみんなで一斉に跳ねると床がドゥンドゥンと揺れてたのをすごく憶えている。なので重低音もバッチリの作りなのだが、今回は役者とお客さんがロビーやバックヤードに移動して観劇するシーンもあったり、ステージも出捌け口が4箇所あって捌けきるまでのストロークが長い上に観客から丸見えetc...というのは稽古時にも想定してやってたもののいざ実際の会場に立ってみると思ってたよりも色々と大変で、場当たり(劇場でのシーンごとの確認、照明や音響の合わせ)で一つ一つ問題点を改善するも段取りの変更などもあって直前までバタバタしてたけど無事に初日。

 お客さんの異常な盛り上がりに演者が唖然とするほどのスタートを切り、あっという間に千秋楽。気付けば毎日たくさんのお客さんに囲まれて、今回の目玉企画であったニコ生での中継配信も延べ12万人が視聴するというモンスター公演になっていたのである。

 毎ステージをニコ生で配信してそこへの書き込みがステージ上のモニターにも映し出されるという無謀な試みも企画倒れにならなかったばかりか、もともとのチャー研アニメが再び陽の目を浴びたのもニコ動のコメントによる突っ込みの面白さも含めたものだから、そこへのリスペクトとそれを反復出来る面白さもあって、更には普通だったらネットで舞台公演を無料で観たらそれで満足しちゃうけどネットで観てから生でも観たいと劇場まで足を運んでくれたお客さんも多かった事。
書き込みによる突っ込みも秀逸なのが多くて出演してると逆にそれがほとんど観れないから歯がゆいくらい。

 そしてもう一つの目玉としてそのニコ生の機能を使って好きなキャラクターにリアルタイムで投票し、得票一位だった者があるシーンで主人公・研になれるというこれまた斬新なシステム。(そのためにはスマホの電源もONでなくてはならないのでどうせなら写真撮影も可にしちゃえ!っていう。)

 そこで用意されたのが日替わりのジュラルアピールコーナー。我々アンサンブルのジュラル星人達はメインキャストの皆様のように知名度もないので、「ジュラル星人が“個性”をアピールする」という名目で自身のお披露目が出来る場である。というか要するに一発芸コーナーで稽古中にもしょーもないギャグが生まれては消えていったワケですが、各々の持ち味を活かし毎回ランダムな人選でお届けする中、僕はアンサンブルでは年長者だし若いジュラル達に活躍して欲しいっていうのと、てか一発芸なんてね〜よ!っていうのもあって(ホントはコルセットで腰をギリギリ絞ってウエストをジャスト40cmまで細くするという特殊体型を活かしたフェティッシュな芸を用意していたのだがヘッドセットマイクの機材が腰の位置に来る事になったので断念)11ステージ中2回のみの登板、さも瀬戸内寂聴の説法かのように内容が有りそうで全く無い話を延々するだけという謎の話芸。このコーナーはジュラルチーフの浜ロンさんがそれぞれの芸や全体のメリハリを監修してくれて僕も自分が出るとなった時(最初は全く出るつもりなかった)にダラダラ喋って適度なところで自分から輪に戻って座るという段取りを付けてもらったんだけど、本番で喋り始めたら自分でどこで止めればいいのか判らなくなってしまいけっきょく浜ロンチーフに「座れ」と諭されて終わるスタイルになってしまったという。

 内容の無いダラダラした話と言いつつもあの話には実は続きがきちんとあって、「個性」という事で、個性的と言われる自分の見た目、ピアスやタトゥーとそれにまつわる職質などのエピソード→ピアスもタトゥーも他人から施された物なのにそれを個性と言えるのか?→では生まれながらの肉体はどうか?→DNAにより体格、髪や目や肌の色など多くのものは決定してしまい生まれながらにして規格にハメられている→だがしかし親の完コピではなく両親の遺伝子が一部情報交換する事でここで初めて自分だけの「個性」が生まれる→しかも最近の研究では体験や感情も遺伝子の中に情報としてインプットされ受け継がれているとの事→我々ジュラル星人は仲間が研に殺される姿を幾度となく見ている、その体験は恐怖・悲しみとして何度も受け継がれいつしか我々は研に殺されて当たり前の生き物になってしまった→その現状を覆すためには我々はまず生き延びなくてはならない→そして我々が個性を発揮するためには遺伝子情報の中の変えられる部分、すなわち感情と体験を「死の恐怖と悲しみ」から「生きる歓び」に書き換えていかなければならない→楽しく生きる事自体が個性なのだ!!!意外といい話!完!みたいな。(適当)

 若衆ジュラル達は日々のアピールで会場とニコ生上でもどんどん認知され得票もされるようになり、見事、研にまで上り詰めた者も。まさにチャージマンドリーム!惜しくも研になれなかったジュラルもその名を世に充分にアピール出来た上に、この公演に出演していたという事が今後プロフィール上で重要な役割を果たすかもしれない。

 こうして出演者誰もが「俺のターン」を持つ事が出来る優しい演出でした。

 でもこれは出演者だけでなくお客さんだってそうなのだ。一緒に歌って踊ってペンライト振って写真撮ってコメント書き込んで投票してって楽しく参加する事こそがこの公演を作る大部分を占めるのだし、それはまさに「貴方のターン」なのです。(粋な事言ったよ!)

 ペンライトといえばジュラル星人のみで歌い踊るシーンでは最初はそこだけいきなり盛り下がりまるで汚物を見るような目で見られていて(もしくはスマホいじりタイム)、楽屋に戻ったジュラル達がしょげたり「死ねっていう目だった…」と怯えたりしてたものだけど、日に日にペンライトを振ってくれるお客さんも増えて、後半はジュラルをイメージしてくれたのだろう、赤一色のペンライトがいっぱい揺れてて感動したよね〜!ちょっと王蟲の群れみたいだったけど。
こういうのってスゴイなって思うのは、別に作り手側はジュラルのイメージカラーは赤ですよ!なんて一言も言ってないし、お客さん同士だって別に打ち合わせするワケでもないだろうに一体化してるのがとても不思議で。僕はそれまでいわゆるオタ文化(って言葉で語弊があったらごめんなさい)をよく知らなくて、推しっていう概念とか、みんなTwitterのプロフィールに「成人済み」って書いてあるのは何なの?とかいまだに謎も多いんだけど、そのまるで訓練を受けたかのような連帯感に驚いたし、お◯松さんのパロディーのシーンではそれぞれの推しが着てるトレーナーの色に合わせてペンライトの色も設定してたりとか、なるほどな〜って思ったり。すごくクリエイティブだよね。好きなものをとことん楽しむプロっていうか。

 俳優ファンにとってはもっとオシャレでカッコイイ姿が観たかったかもしれないし、チャー研ファンにとってはやっぱ原作の方がいいっていうのもあったかもしれない。でもソレはソレ、コレはコレで、みんなで楽しんで作った公演というのは間違いないだろう。

 個人的には失敗もたくさんしたから後悔もあって、振付間違えたり衣装の手袋やマスクが間に合わなかったりヅラがズレたり取れたりセリフちょっと噛んだりと色々あったけどいちばんのミスは、オープニングを出トチリした回があった事。なんかその時だけなぜか勘違いして次のシーンの衣装を着始めてて、オープニング曲が聴こえて、アレ?からのめっちゃ焦って着かけてた衣装を脱ぎ捨ててバックヤードを爆走し歌い出しまでには間に合ったけど…というギリギリアウトなヤツ。しかもDVD収録日。クソ〜、着替えが多いんじゃ〜!!!
毎回間に合ってはいるけどギリギリだったのは西側から捌けて次にすぐ東から出なきゃいけないとこがあって、そこもいつも裏をウサイン・ボルト並みの速度で疾走してからシレッとした顔で出るっていうね。出捌けが遠いんじゃ〜!!!
喉も枯れて、何とかラストまで潰れはしなかったし観に来てくれた友達にも声の枯れは特に気にならなかったとは言われたけど、自分的にはどうしても気になっちゃうし本域の声質や声量じゃなかったのが悔しい。叫ぶセリフと歌が多いんじゃ〜!!!のど飴と響声破笛丸のドーピングで何とかもたせたよね。あと僕はマイクを付けるのが初めてだったから自分の声がどんだけ聴こえてるのかがいまいち判んなくてそれでついつい大声になっちゃってそれでまた音声さんがボリューム落とすっていう負のループが。

 でもやっぱ楽しかったなー。大人が一生懸命バカな事やってる姿って愛おしいよね。配役の適材適所感も含め。

 それでもみんな個々に色々抱えてたり想ったりしてた事もあったみたいで、打ち上げでそれがやっと解放されて泣く人続出。いいんだよ大人になっても嬉し泣きしたり感涙したりもらい泣きしたりして。何にも恥ずかしくない。みんな素敵でした。

 さて続編をやると発表されてましたが果たして本当にあるのか!?その時は僕にもオファーが来るのか!?スタッフとしてでもいいよ!?でも普通に客として観たいっていうのもあるけど!

 改めてご来場・ご視聴頂いたお客様、共演者の皆様、スタッフの皆様、関係者各位、ありがとうございました。楽しかったよ〜ん!